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東京地方裁判所 昭和30年(行)80号 判決 1958年10月23日

原告 株式会社会雨宮商店

被告 目黒税務署長

訴訟代理人 真鍋薫 外四名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原告の申立

「被告が昭和三十年六月十六日訴外合資会社洗足製パン所に対する滞納処分として別紙物件目録記載の物件に対してなした差押処分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

第二、被告の申立

(本案前)

本件訴を却下するとの判決を求める。

(本案につき)

原告の請求を棄却するとの判決を求める。

第三、原告の主張

一、被告は昭和三十年六月十六日訴外合資会社洗足パン所(以下訴外会社という)に対する法人税の滞納処分として、東京都目黒区洗足町千二百九十二番地所在三興食品有限会社において別紙物件目録記載の物件(以下本件物件という)に対し差押処分(以下本件差押処分という)をした。

二、しかしながら本件物件は原告の所有に属するものである。すなわち本件物件はもと訴外会社の所有であつたが、原告は昭和二十八年二月頃訴外会社の代表者無限責任社員太田卯彦の代理人佐藤国太郎より選任された復代理人阿部俊郎から本件物件を含む数十点の物件を代金四十五万四千円で買受け、その所有権を取得しその引渡をうけたものである。

三、そうすると本件物件は訴外会社の所有ではないから、被告が訴外会社に対する滞納処分としてなした本件差押は違法である。

四、原告は右差押の事実を昭和三十年七年二十一日知つたので翌二十二日被告に対し財産取戻請求をしたところ、被告は同月二十六日附をもつて右請求を却下し、同年八月二十七日を公売期日と定めた。右期日は延期となつたがいつ公売されるかわからない状況にあり、公売されると再び本件物件を買入れるについて莫大な費用を要することになる。このことは前記差押につき再調査及び審査の請求を経ないことについて正当の事由があるというべきであるから、右請求を経ないで、右差押処分の取消を求めるため本訴に及んだ。

第四、被告の主張

(訴却下を求める理由)

一、国税滞納処分たる差押処分の取消を求める訴を提起するには再調査の請求及び審査の請求及び審査の請求を経なければならないにかかわらず、原告は右手続を経ないで直に出訴したものであるから、本件訴は訴願前置の要件を欠く不適法なものといわなければならない。

二、(一) 仮りに財産取戻請求だけで差押処分の取消を求めることが許されるとしても本件差押処分については昭和三十年七月二十二日雨宮富作名義の財産取戻請求書が被告に提出されただけであるから本件差押に対する取戻請求は訴外雨宮富作からなされたものであつて、原告からなされたものではないから原告は取戻請求を経たことにはならない。

(二) 仮りに右雨宮富作の財産取戻請求だけで足りるとしても本件物件のうち鉄製ラツクについては取戻の請求がなかつたのであるから右物件に対する差押処分の取消を求める部分は不適法である。

(本案についての答弁)

原告主張事実中、第一項は認め、第二項ないし第四項は争う。

第四、被告の主張に対する原告の主張

一、昭和三十年七月二十二日被告に提出された財産取戻請求書には雨宮富作と表示されているが、右雨宮は原告会社を代表して右請求をしたものである。

二、また右書面に鉄製ラツクの記載がなかつたことは認めるが銑製ラツクについては右書面を提出した際目黒税務署徴収係長に口頭で請求したものである。

第五、証拠<省略>

理由

一、本案前の主張について

被告は本件訴は訴願前置の要件を欠く不適法な訴であると主張するので先ずこの点につき判断する。

被告が本件差押処分をなしたこと及び原告が右処分に対し再調査の請求及び審査の請求を経ていないことは当事者間に争がない。

およそ行政処分の取消の訴を提起するには、その処分につき訴願ができる場合には訴願の裁決を経ることを要し、特に国税徴収法に基く滞納処分につきその取消の訴を提起するには、原則として同法第三十一条の三第五項所定の審査の決定を経ることを要するのである。ところで滞納者以外の第三者が滞納処分の取消の訴を提起する場合においても右のような制約を免がれるものではないと解すべきであるが、同法第十四条には第三者がその所有権を主張して財産の取戻請求をなすことを認めており、右規定はもともと簡易な行政手続で財産の取戻をなすことを目的としたものではあるが、滞納処分につき行政庁に不服を申立てその再考慮を求める趣旨を含む意味において実質上訴願たる面をも有するものであるから、訴願前置制度存置の趣旨から考えれば、第三者が特に差押財産につきその所有権を主張して滞納処分の取消の訴を提起する場合には、審査の決定に限らず、同法第十四条所定の財産取戻請求を経ていれば足りるものと解するのが相当である。

原告は昭和三十年七月二十二日本件物件につき被告に対し財産取戻請求をなしたと主張するのに対し、被告はこれを否認している。昭和三十年七月二十二日被告に対し雨宮富作名義の財産取戻請求書なる書面が提出されたことは当事者間に争がなく、原告は右請求書は雨宮富作が原告を代表して提出したものであると主張するのであるが、成立につき争のない乙第二号証の記載に徴すると右請求は本件物件が雨宮富作個人の所有であるとして雨宮富作個人からなされたものと解するのが相当であつて同人が原岩会社を代表してなしたものとは到底認め難く、その他右請求が原告会社によつてなされたことを認めるに足る証拠はない。

そうすると原告としては本件差押処分につき訴願の裁決を経ていないといわなければならない。もつとも訴願前置の趣旨は当該行政処分について行政庁による再審査を要求するところにあるから、訴願における訴願人と訴訟における原告とは必ずしも同一であることは要せず、その行政処分につき原告と同一の地位にあるものと見られる者が訴願の裁決を経ていれば足りるものと解すべきであるけれども、本件において取戻請求をなした者は雨宮富作個人であつて、同人はたまたま原告会社の代表者であつたが、取戻請求をなした際同人は個人の所有なりと主張しており(成立に争ない乙第一号証によりこれを認める)又同人が原告会社の代表者であることを主張した証拠はこれを認めるに十分でないので他面本件における原告の地位からみると(原告が本件物件を原告の所有であるとして本件差押処分の取消を求めている立場からみると)雨宮富作は原告の代表者として経済的な利害関係を有するにすぎず本件差押処分に対して不服を申立てる法律上の利益を有しない者であるから同人が訴願の裁決を経ているからといつて原告が訴願の裁決を経ることを要しないと解することはできない。

また原告は本件においては再調査の請求及び審査の請求を経ていたのでは著じるしい損害を蒙るから審査の決定を経ないことについて正当な事由があると主張するけれども右主張事実を認めるに足る証拠はない。そうすると本件訴は訴願前置の要件を欠く不適法な訴といわなければならない。

二、よつて本案につき判断するまでもなく本件訴を不適法として却下すべきであり訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 地京武人 越山安久)

物件目録<省略>

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